生命保険と特別受益
1 生命保険は特別受益にならない
生命保険は、原則として特別受益に該当しません。
この保険金は、死亡後に初めて発生するものであることから、「相続人固有の権利」(=被相続人から譲り受けた権利ではない)とされているためです(最高裁判所平成16年(許)第11号 平成16年10月29日第二小法廷決定)。
つまり、たとえ相続人の一人だけが死亡保険金を受け取っていたとしても、遺産は、原則として法定相続分に基づいて、平等に分割しなければなりません。
2 「著しい不公平」がある場合には生命保険が特別受益となる
もっとも、生命保険を1000万円受け取ることと、1000万円の生前贈与を受け取ることは、経済的に大きな違いはありません。
そのため、判例上も、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、生命保険も特別受益にあたるとしています。
そして、著しい不公平となるかどうかは
①保険金の額
②保険金額の遺産の総額に対する比率
③同居の有無
④被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係
⑤各相続人の生活実態等
を総合考慮して判断されます(最高裁判所平成16年(許)第11号 平成16年10月29日第二小法廷決定)。
3 生命保険が特別受益となる具体的な場合
生命保険が特別受益となるかは、事案ごとに異なる判断がされる場合がありますが、②遺産の総額に対する保険金の比率は重要な考慮要素となります。
※「遺産の総額」とは、生命保険を含みません。
例えば、次のような場合には生命保険が特別受益とされています。
例1)東京高決平成17年10月27日
・遺産総額:1憶 134万円
・生命保険:1憶 129万円
・遺産の総額に対する保険金の比率=99.9%
→〇特別受益にあたる
例2)名古屋高決平成18年3月27日
・遺産総額:8423万円
・生命保険:5154万円
・遺産の総額に対する保険金の比率=61.1%
→〇特別受益にあたる
また、次のような場合には、特別受益性が否定されました。
例1)大阪家堺支審平成18年3月22日
・遺産総額:6963万円
・生命保険: 428万円
・遺産の総額に対する保険金の比率=6.1%
→×特別受益にあたらない
4 特別受益になるかは事案ごとの判断が必要
生命保険の遺産に対する割合は重要ですが、もちろんこれだけで特別受益であるかどうかが決まるわけではありません。
例えば、今まで無償で介護をしてきた相続人が受け取った場合の保険金は、今までの介護へのお礼・対価としての意味合いがあります。
そのため、介護をしていない他の相続人との間に著しい不公平は生じないとして、特別受益には当たりにくくなります(④相続人の貢献の度合い)。
また、喪主となる予定の長男にだけ、2~300万円程度の死亡保険金の受取人に設定されていた場合、その保険金は、葬儀費用に充てることを目的としています。
仮に葬儀費用より保険金の方が多くとも、相続人間に著しい不公平があるとはなりにくいと考えられます。
また、保険金の全額ではなく、一部が特別受益になる場合もあり得ます。
当初は保険料を被相続人が支払っていたが、途中から相続人が支払っていた場合には、被相続人が支払っていた部分だけが特別受益になり、相続人自身が支払った部分は特別受益にならない可能性もあります。
5 生命保険の扱いにお困りの場合は弁護士に相談を
生命保険が特別受益になるかどうかは、過去の裁判例でも頻繁に争われており、このように複雑な問題を多く含んでいます。
さらに、ご家族ごとに全く異なる判断がくだされることもありますので、専門的な見地からご家族ごとに慎重に検討をする必要があります。
そのため、生命保険が特別受益になるかどうかが問題になりそうな場合は、まず弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、ご家族ごとに事情を詳しくお聞きして、将来の見通しや対応方針を検討できます。
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