相続財産の評価の基準時
1 弁護士はいつを基準として相続財産の評価を行うか
相続では、相続財産をいつの時点で評価するかが問題になることがあります。
有価証券については、短期間で大きく値動きするため、いつの時点で評価するかによって、評価額が大きく変わる可能性があります。
不動産についても、それ自体の評価額が大きいことが多々あるので、わずか数%評価額が変動しただけでも、大きく評価額が変わる可能性があります。
特に、相続が発生してから、長期間分割が未了のままとなっている場合には、その間に評価額が大きく変動していることが想定されます。
このように、評価額が大きく変動した場合には、いつの時点の評価額で評価を行うべきか問題になります。
この相続財産をいつの時点で評価するかという問題を、評価の基準時の問題といいます。
遺産分割における財産の評価の基準時は、現実に遺産分割が行われる時であるとされています。
現実に遺産分割を行う時の評価額で評価されるため、相続人間での公平な解決を図ることができるといえます。
2 弁護士が特別受益と寄与分の主張を行う場合の基準時
発展の話になりますが、特別受益や寄与分が問題になる場合は、特別受益や寄与分の金額について、いつを基準時として評価するかが問題になることがあります。
特別受益と寄与分の金額の評価の基準時は、実際に遺産分割を行う時ではなく、相続開始時であるとされています。
このため、特別受益者や寄与相続人がいる場合は、相続財産を、相続開始時と遺産分割時の2つの時点で評価します。
具体的相続分の算定は、相続開始時の価額を用いた計算を行い、分割による現実の取得額の算定は、遺産分割時の価額で評価された遺産を具体的相続分の比率に応じて配分することになります。
例えば、次のような計算を行うことになります。
・ 相続人は子A、子B、子Cである。
・ 相続財産は、相続開始時の評価額で3000万円、遺産分割時の評価額で5400万円である。
・ 被相続人は、子Aに対して、1200万円を生前贈与した。
・ 被相続人は、子Bに対して、300万円を遺贈した。
① 相続開始時の相続財産の価額+特別受益である生前贈与の価額=みなし相続財産額
3000万円+1200万円=4200万円
② みなし相続財産額×各自の法定(指定)相続分-特別受益である贈与・遺贈の価額=具体的相続分額
子A
4200万円×1/3-1200万円=200円
子B
4200万円×1/3-300万円=1100万円
子C
4200万円×1/3=1400万円
具体的相続分額の総和
200万円+1100万円+1400万円=2700万円
③ 遺産分割時の相続財産の価額×具体的相続分の比率=現実の取得額
子A
5400万円×200万円/2700万円=400万円
子B
5400万円×1100万円/2700万円=2200万円
子C
5400万円×1400万円/2700万円=2800万円