遺言の上手な利用方法と失敗例
1 遺言の上手な活用方法
遺言は、上手に活用すれば、相続人間の紛争を予防できるだけでなく、相続税対策になる場合や、遺言書がない場合に比べ手続きの簡略化を図れる場合があります。
以下では、遺言の上手な活用方法の一部をご紹介いたします。
⑴ 紛争予防
遺言を作成することによって、紛争を防止することができる場合があります。
そもそも、遺言がない場合は、相続人全員で遺産の分配について話し合わなければならず(この話し合いを遺産分割協議といいます)、この遺産の分配で揉めるケースがほとんどです。
他方、遺言がある場合、事前に遺産の分配が決まっているため、遺言がない場合に比べて揉めにくくなります。
また、相続人が兄弟姉妹になる場合、遺言で分け方を決めておけば、遺留分の請求もないため、遺産の分割で揉める可能性はかなり低くなります。
⑵ 相続税対策
遺言の内容次第によって、相続税を抑えることが可能になります。
たとえば、土地の評価額を最大80%減額させるという小規模宅地等の特例という制度がありますが、この特例を使うためには、特定の相続人が当該土地を取得する必要があります。
そのため、特定の相続人に小規模宅地等の特例を活用できる土地を相続させる旨の遺言を記載しておけば、相続税をかなり抑えることができる可能性があります。
⑶ 相続人以外の人や団体に財産を渡すことができる
遺言を作成することによって、相続人以外の人や団体に、財産を渡すことができます。
たとえば、子ではなく孫に遺産を渡したい場合、基本的に、孫が相続人でない限り、遺言を作成しないと孫に遺産を相続させることはできません。
また、遺言を作成すれば、お世話になった知人や友人、NPO団体や市町村等にも遺産を相続させることもできます。
⑷ 相続人が複数いる場合は手続きが簡単になる場合がある
相続人が複数いる場合、遺言がなければ、相続人全員での遺産分割協議を行った上、遺産分割協議書という書類に相続人全員の署名・押印が必要になります。
また、預貯金の解約や不動産の名義変更を行う場合、相続人全員の印鑑登録証明書と相続人全員の戸籍謄本等も必要になるなど、集める書類がかなり多くなります。
他方、遺言を作成しておけば、遺産分割協議書の作成は不要になり、また、相続人全員の印鑑証明書や戸籍謄本も不要になる場合があります。
⑸ 判断能力がない人がいても遺産を分配できる
遺言がない場合、相続人のうち、一人でも認知症や事故等で判断能力がない方がいる場合、基本的に遺産分割ができず、預貯金や不動産の名義変更ができなくなります。
この場合、遺産分割を行うためには、判断能力がない相続人のために、成年後見人を選任する必要があります。
たとえば、父が亡くなり、相続人が母と子の場合、父がなくなった時点で、母が認知症になり判断能力を喪失している場合、母に成年後見人を選任しなければ、父の預貯金や不動産の名義変更を行うことができなくなります。
この場合、母に成年後見人を選任するだけでも費用と時間がかかり、また、成年後見人が選任されると、原則、母が亡くなるまで月3~5万円程度の費用がかかりつづけます。
他方、遺言を作成しておけば、判断能力が低下している相続人がいたとしても、その相続人に成年後見人を選任せずに、預貯金の解約等の相続手続きを行うことができます。
2 遺言の活用の失敗例
相続に詳しくない専門家に遺言の作成を依頼した結果、失敗してしまう事例もあります。
たとえば、父と長男と長女がいる家庭で、父が長男にすべての財産を相続させる旨の遺言を作成しました。
その後、長男が父より先に亡くなった場合、父が作成した遺言は、遺産を受け取る長男が父より先に亡くなっているため、基本的に無効になります。
そうなってしまっては、長男に子(父から見たら孫)がいる場合、長男の子と長女とが、父の遺産をめぐって紛争になる可能性があります。
このように、相続に詳しくない専門家に遺言の作成を依頼してしまうと、何の対策にもならず、かえって相続人間のトラブルの原因となる遺言を作成されてしまう場合があります。
特に税金関係については、相続に詳しくない専門家だと、ほとんど知らない場合もありますので、注意が必要です。