複数人が不動産の相続を望んでいる場合について
1 同じ不動産の取得を希望する相続人が複数人いる場合
遺産分割協議は、相続人全員が同意しなければ、成立しません。
相続人の1人でも遺産分割の内容に反対していると、遺産分割協議は成立せず、不動産の名義変更も預貯金の払戻もできないことになります。
相続人全員の同意が得られない場合で、特に紛糾しやすいのが、同じ不動産の取得を希望する相続人が複数人いる場合です。
この場合は、不動産の取得についての意見が調整できない限り、遺産分割協議は成立しないことになってしまいます。
このように、同じ不動産の取得を希望する相続人がいる場合には、どのように相続人の意見の調整を図ればよいかお悩みの方もいらっしゃると思います。
以下では、意見調整の方法の例を紹介したいと思います。
2 不動産について利害関係を有しているのが誰か
一般に、不動産については、最も利害関係を有している相続人が取得するのが合理的であると考えられます。
何らの利害関係も持っていない相続人が不動産を取得したとしても、将来、実質的に不動産に利害関係を持っている人との間で紛争が生じ、派生的な問題が発生するおそれがあるからです。
また、遺産分割協議が成立せず、家庭裁判所の遺産調停、ひいては遺産分割審判へ移行した場合には、各相続人が不動産について利害関係を有しているか等を踏まえ、誰が不動産を取得するかの決定がなされる可能性が高いです。
これらを踏まえると、不動産について、最も強い利害関係を有している相続人が、不動産を取得することが合理的であると考えられます。
たとえば、現に不動産に居住している相続人がいる場合には、その相続人が強い利害を有しているといえます。
農地や雑種地等についても、現にその土地を使用している相続人がいる場合には、その相続人が強い利害関係を有しているといえます。
もっとも、現時点で使用しているとしても、将来も継続して使用するかどうかが問題になることもあります。
他にも、不動産を現に管理している相続人がいる場合も、利害関係を有しているということができます。
ただし、固定資産税を支払っているだけの場合、ただちに利害関係を有しているということにはならないといわれています。
3 不動産の取得のためいくらまでの対価を支払う意思があるか
遺産分割協議や遺産分割調停でしばしば用いられる方法として、取得を希望している相続人に、不動産の値付けをしてもらい、最も高い値付けをした相続人が取得するものとするといったものがあります。
不動産を取得した相続人は、不動産の取得の対価として、他の相続人に対して代償金を支払うことになります。
不動産の高い値付けをした相続人は、その分、他の相続人に対して、多額の代償金を支払う意思を有していることになります。
各相続人が値付けを行った結果、最も高い値付けを行った相続人、つまり、他の相続人に対して最も多額の代償金を支払う意思を有している相続人が取得するものとすることは、一定の合理性があるといえます。
不動産の取得を希望していたものの、結局不動産を取得できなかった相続人も、代わりに、自身の値付けを上回る評価額での代償金の支払を受けることができますので、一定の利害調整がなされたということもできます。
もっとも、このような手法を用いるには、不動産の取得を希望している相続人が、このような手法を用いることに同意し、かつ値付けの結果に従う意思を示す必要があります。
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